印伝

Life with INDENstory vol.7

四井 真治Shinji Yotsui山梨県北杜市在住
ソイルデザイン代表、
パーマカルチャーデザイナー

山梨県北杜市在住
ソイルデザイン代表、
パーマカルチャーデザイナー

山梨県北杜市在住
ソイルデザイン代表、
パーマカルチャーデザイナー

自然の流れに寄り添う 『パーマカルチャー』を実践する暮らし

「自然の仕組みって本当によくできています。パーマカルチャーを研究して、自分なりの世界観を少しずつ形にしてきた結果、10年かかってこの場所にひとつの世界ができあがりました」自作のかまどで火を起こしながら、嬉しそうに話す四井真治さん。爽やかな初夏の風が吹き抜ける庭は緑があふれ、ワイルドストロベリーが実り、ビオトープにはワサビやドクダミが生い茂っています。人間はもちろん、猫や鶏たちも穏やかにのびのび暮らしています。

パーマカルチャーとは、持続可能な環境を生み出していくためのライフスタイルのデザイン。人間と自然が共に豊かになるような永続的な暮らしを実践している四井さんはこう言います。「パーマカルチャーはまさに『命の仕組み』。私たち人間や動物たちが暮らすことで、この場所は土も環境もどんどん良くなっていく。生態系の仕組みに逆らわず、周りの自然環境に寄り添う暮らしには無限の豊かさがあります。実践してきたからこそ、やっとその原理が理解できるようになりました」

日常生活の中で『命』に触れる体験が
心の豊かさにつながる

こまめに堆肥小屋を観察するのが四井さんの日課。発酵熱で温かくふかふかの堆肥は、落ち葉や生ゴミ、排泄物などを分解し、畑にまかれて土に還っていきます。昨年この世を去ったヤギのキューちゃんを埋葬した四井さん、「キューちゃんの体から出てくる虫を鶏たちが食べ、堆肥の中の微生物がその体を食べて分解していくことを考えた時、キューちゃんは私たち家族のもとに新たな命となってまた還ってきてくれると実感できました」と、堆肥小屋の中を元気に動き回る鶏たちの姿に目を細めます。鶏たちは卵を提供してくれ、竹林を切り開いた畑には野菜や果樹が育ち、竹堆肥の菌床からはマッシュルームが顔を出しています。自分たちの暮らしの中で得られる貴重な食材だからこそ、より一層美味しく感じられるし、噛みしめるごとに充足感で満たされるのでしょう。そんな日常生活の中の一つひとつの作業を心から楽しむ暮らしこそ、心の豊かさにつながると四井さんは考えます。

命は文化につながる。 古きよき文化を大切にしたい

古い農機具や道具を集め、壊れても修理しながら大切に使い続けたり、生活に必要なものは自ら作り出している四井さん、「古いものって自然の仕組みや文化のかけらを感じとれます。自分が本能的に文化の断片を欲しているのでしょうね」と、ナラの端材で自作した木皿を見つめます。「文化には不思議な力があります。自然の流れや文化に沿って暮らしていると、自分のやりたいことややるべきことが定まり明確になります。アイディアや行為が必然的に生まれてくるんです」と語り、「その土地の自然や風土を理解しながら生きる、その結果、暮らしは文化となります。自然や風土にマッチしたものだけが風習や文化となって根付いていくのです。そして、暮らしは『命の仕組み』に基づいているものなので、文化は命の延長線上にあることになります。命と文化、その間に自分たちの暮らしが存在しているのです。だからこそ、今残っている日本の文化を大切にしていかなければならないと思います」

甲州印伝には膨大な時間と
知恵が凝縮されている

約10年前に購入し、3年ほど使い続けたという唐草模様のがま口を手に、「こういうがま口が好きなんです。このデザインだったら男性が持つのも良いと思ったし、かなりラフに扱っていましたが、とても使いやすいんです」と微笑む四井さん。しかし、口金をつくる職人が減少している現実を知り、「こうやって日本の素晴らしい文化が失われていくのかな」と嘆く。

「甲州印伝は膨大な時間と知恵が詰まった産物。モノにはテキスト以上の情報があり、このがま口から多くの情報を感じ取ることができます。このがま口を手元に保管しておいて良かった。これは歴史をつなぐ貴重な資料になるはずです。甲州印伝の文化と技術を絶やさずに後世に受け継いでいくためにも、これからも大切にしたいですね」

四井 真治Shinji Yotsui

1971年福岡県生まれ、信州大学農学部森林学科卒業後、緑化会社と有機肥料会社の勤務を経て独立、ソイルデザインを設立。2007年に山梨県北杜市に移住。生ゴミや排泄物を堆肥に利用、生活排水を庭のビオトープに活用するなど、無駄のない自給性の高い暮らしを実践しながら、全国各地で講師活動を続ける。パーマカルチャーセンタージャパン講師。

ソイルデザイン
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