月を待ち、大切な人と分かち合うひととき。-和菓子職人に学ぶ「十五夜」の心と手仕事-
印傳屋では1989年より、「十五夜」を未来へ残したい大切な文化と捉え、メッセージをお届けしてまいりました。
自然の移ろいに心を動かされ、祈りや願いを込めて育まれてきた、この国の季節の習わし。
鹿革に漆で自然の模様を描き出す印伝もまた、そうした先人の想いや自然への感謝から生まれた伝統工芸です。
月見をはじめとする日本独自の文化を後世に伝えたいという願いから、私たちは公式ホームページや新聞広告などを通じて、その心を広く発信し続けています。

心の豊かさが、「良いものづくり」の源になる
38年目を迎える今年の十五夜。私たちはこの社会的な文化活動を社内でも深く見つめ直すため、一つの特別な試みを行いました。
9月13日の日曜日。同じ甲府の地で115年の歴史を重ねる老舗和菓子店・株式会社澤田屋より、和菓子職人であり工場長を務める古屋隆利氏をお招きし、印傳屋の社員とその家族、約30名が集う「お月見団子体験会」を開催いたしました。
この体験会をひらいたのには、大切な理由があります。
それは、毎日印伝に向き合う社員自身が、お月見を暮らしの中の大切な行事として心から愉しむこと。
そして、自らの手で団子をつくる体験から得たこころの動きや豊かなイマジネーションを、家族や身近な人と共有し、温かで幸せな時間を創り出すことです。
身近な人と過ごす幸せな時間、自然の恵みを慈しむ心こそが、巡り巡って、お客様に寄り添う「良い印伝のものづくり」へと生かされていく。
私たちはそう信じています。
自然への感謝を分かち合う

体験会の冒頭、専務上原より「十五夜」という文化が持つ意味について、参加した子どもたちへ語りかけました。
「十五夜は、一年で一番お月様が綺麗に見える日です。お団子やススキ、野菜をお供えするのは、古くから日本人が自然に対して『ありがとう』という感謝を伝えてきたから。私たちが毎日美味しいものを食べられるのは、自然の恵みがあってこそなのです。今日はお団子を作りながら、その素晴らしさをぜひご家族で分かち合っていただきたいと願っております」
この専務の言葉を受け、会場は和やかな、そしてどこか背筋の伸びるような空気に包まれました。
和菓子職人に教わる、和菓子の心と手仕事
講師を務めた古屋工場長は、和菓子一筋32年の歩みを振り返りながら、伝統を守り伝えることへの想いを語ってくださいました。

「私がこの世界に入った30年前は、ひたすら餡を練る修行の毎日でした。今は餡作りから仕上げまで全工程をこなす技術が求められます。伝統を守ることは容易ではありませんが、若い世代に技術を伝えることに喜びを感じています」
また、季節の行事菓子を作り続ける職人ならではの矜持には、目を見張るものがありました。
「実は、年に一度しか作らない行事菓子は、職人にとっても並々ならぬ気合が入るものです。その都度『塩梅』を合わせるのが非常に難しく、もし失敗しても、その反省を活かせるのはまた一年後。そのサイクルのなかで技術を受け継いでいくことは、本当に難しい。だからこそ、大切なのです」
近年は、十五夜の風習も家庭から消えつつあり昔に比べればお月見団子の需要は減りつつあるそうです。しかし、古屋工場長は「この文化を残したい」という強い想いで作り続けているといいます。
感性は、日常の何気ない風景にも宿っている――
「ふと花を見て、『あ、今これだな。これを作ろう』と感じる。職人でなければ意識しなかったであろう自然の変化を、今は常に意識して生活しています」
その言葉は、自然の文様を鹿革に表現している印傳屋の職人たちの姿とも、深く重なりました。
職人が教える、ご家庭で愉しむ美味しいお月見団子レシピ
今回は「ご家庭でも手軽につくれて、本格的な食感が愉しめるように」と、古屋工場長が特別に考案してくださったレシピを実践しました。
本来、和菓子店では蒸籠を使って蒸し上げますが、今回は上新粉に白玉粉を半分合わせるアレンジを教わりました。
「白玉粉を混ぜることで、蒸す・つく作業を省いても、もちもちと柔らかい食感になるんです」という職人の知恵に、大人も子どもも感銘を受けていました。
大人も子どもも夢中になって手を動かした特製レシピをご紹介します。
※日もちは当日中。冷蔵庫保存もおすすめしません。食べ切れる分だけ作りましょう
【材料】 20個分
• 上新粉 150g
• 白玉粉 150g
• 水 200ml
※上新粉や白玉粉の粗さによって水の量を調整
• 粒餡 150g
• こし餡 150g
※スーパーなどで売られている市販のもの
【作り方】
1.あんこの準備

スーパーで買ってきた粒餡とこし餡は水分を飛ばすため、それぞれ鍋に入れ、弱火にかけます。
- 職人のコツ:あらかじめ水分を抑えておくことで、茹でる際に破裂しにくくなります
2.生地づくり

上新粉、白玉粉をそれぞれ別のボールに入れ、水を少しずつ加えながら練ります。
- 職人のコツ:上新粉と白玉粉は混ざりにくいため、最初は別々に練ります
- 硬さは「耳たぶくらい」が目安。もし柔らかくなりすぎたら粉を足して調整します
それぞれの生地を混ぜ合わせます。
あわせた生地を棒状に伸ばして20等分に切ります。
3.丸める

粗熱が取れたあんこを1個15gずつに分けます。
あんこを生地で包みます。(包餡) ※この間にお湯を沸かしておきましょう
- 職人のコツ:包んだ後は表面が滑らかになるように丸めると、茹でた時に破裂しにくくなります
4.茹でる

沸騰したお湯をかき回しながら、強火のままお団子を入れていきます。
5分くらいでお団子が上に上がってきたら、火を弱め、そこから5分茹でます。
- 注意:中火で茹で続けると破裂する可能性があります
ラップを敷いたバットにおたまですくい上げたお団子を乗せていきます。
- 注意:重ねるとくっつきます。完全に熱が抜けてから重ねてください

器に盛り付け、傍らにススキを飾ったら完成。お団子を皆で分け合ってお召し上がりください。

できたての喜びと、未来へつなぐもの
体験会の最後には、自分たちでつくり上げたお団子を皆で味わいました。
参加した社員の家族からは、「月見団子を作るのは初めてで難しかったけど、できたては最高でした」と、自ら丸めたお団子の味の感想を照れながらも笑顔で伝えてくれました。


お団子を丸める子どもたちの真剣な眼差し、それを見守る親たちの笑顔。
会場に満ちていたのは、大切な人とともに手を動かし、同じ時間を分かち合うことの、ささやかで絶対的な幸福感でした。
印傳屋の遠祖・上原勇七が甲州の地で印伝を創案して以来、一子口伝の技は四百年以上にわたり受け継がれてきました。
守り、伝えてきたのは、技術だけではありません。道具を慈しみ、自然の恵みに感謝し、手にする人の幸せを願う「心」そのものです。
忙しい現代だからこそ、一度立ち止まって、静かに月を見上げる。
その美しさを愛で、身近な人の健康や日々の恵みに感謝する。
今回の体験会を通じて、私たちの心にも美しい余白が生まれました。
この温かなイマジネーションと幸福な時間が、これからの印伝の一つひとつの針目に、そして漆の模様に、優しい温もりとなって宿っていくことでしょう。
今年の十五夜、皆様も大切な方とともに、心豊かな月の夜をお過ごしいただけますように。

ずっとこの国に残したい文化がある。

1989年 第1回目の新聞広告
この国の人々がこころ動かされたもの。
人の想いや願いによって生まれ、みなが倣ってきた季節ごとの慣習。月見をはじめ、そうしたさまざまな日本の文化を後世に残し伝えるために、印傳屋では公式ホームページや新聞広告などで広く発信しています。
みなさまの日々の暮らしの中で、少しでも日本の文化に思いを馳せたり、たいせつな人と語らい、ともに実践していただけたら幸いです。